同じ人間なのにこんなにも違うのかと思うと、その背の高さも常時放たれている威圧感すらも怖いを通り越して少しだけ笑えてくる。
しかしながらここで笑ってはすぐにバレるので、心のなかにとどめておく事にした。

「楽しい?コレ」
「うん、楽しくはないかな」

楽しくないくせに、司は真夜中に突然姿を現したかと思ったら何故かこうして後ろから覆い被さってくる。
抱き枕?というのも違う。抱き心地には正直自信ないし、数分で司は何事もなかったかのように去ってしまうのだから。

そもそもなぜ私たちの間にこんな奇妙な習慣ができてしまったのか。
確かそう、私がうっかり足を滑らせて崖から落ちそうになったのをたまたまそばにいた司がそれはもう物凄い勢いで引っ張ってくれた。その時は腹に回された腕があばらのちょっと良くない所に入ったような気がしたが、とにかく彼のおかげで死なずに済んだ。
そんな出来事があってから、司とはこんな感じである。それ以上でもそれ以下でもない。

「もう落ちたりしないって」
「……そういう訳じゃないんだ」
「じゃあどういう?」

どうやら司は私の心配をしているのではないようで、私だけがちょっと自惚れていたみたいになって気まずい。
私の腹をすっぽり覆っている掌が僅かに力んだ。

「その、薄さを確かめてるんだ。うまく言えないけど」

返しに困る回答だった。司としては、思うまま正直に答えてくれたのかもしれないが。

「薄いって。そんな痩せてもないけ、ど」

真下を見れば、いやでも分かる彼の手の大きさ。司から見たら私くらいの女なんて大体こんな感じだろう。
司が今この手に本気で力を入れたらどうなる?そんなの分かりきっている。
そうか。彼の言う「薄さ」というのは、そういう事なのだ。

「……結構狡いよね。司って」

司のこんな姿を知ってるのは恐らく私だけだ。同じ女とはいえ司の大ファンだという南に同じ事ができる筈がない。じゃあ司が私を特別に思ってるのかというと多分それは違う。あくまで役割の話だ。

「でも、まぁ良いや」

いくらでも利用してだなんて献身的な気持ちとは程遠い。ただ、ライオンもネコ科なんだなと思った時の、あの何とも言えない気持ちを味わえるのは悪くない。要するに、満更でもない。

「私たちしか知らない事ってのも、面白いし」
「助かるよ。名前」

自分の正義のために人を殺せるのに、その命の薄さをどうしたって忘れられない、忘れたくないと思ってる。狡くて優しい君が飽きるまでは、こうして付き合ってあげても良いよ。



2021.2.6 薄ら氷


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